カルメルの聖人と共に

「神のめぐみに身を委ねて。」マリー=ユジェーヌ神父はこの言葉をよく口にしていました。その言葉通り、師は自分が属するカルメル会のめぐみに深く浸るために、修練時代から生涯の最期に至るまで、カルメルが生んだ聖人たちに絶えまなく学びつづけました。カルメルの教えは確かに厳しいが人間の霊的な渇きを十分に満たしてくれる、そしてわたしたちの時代はその教えを必要としている、と師は深く確信していました。

001アビラの聖テレサは、十六世紀のスペイン人で、改革カルメル会の創立者、そして教会博士です。

テレサは、神との一致に至るまでに越えていかなければならない階段を、情熱をもって登りつめることを師に教えました。テレサの著作『霊魂の城』は、神との一致に至るまでの道のりを示しています。その道はキリストの神秘を観想することで見いだす神のみ旨を、徹底した自己放棄と不断の柔軟性をもって追求していく道です。
002十字架の聖ヨハネから、師は信仰と離脱を学びました。

信仰は暗闇ではあるが確かなもの、そして離脱は、わたしたちの心を満たす唯一の「真理」に至るために、あらゆる皮相的なものから自分を引き離していくことです。師はその生涯の終わりにあたって、「霊魂の深みにおいて、わたしは、十字架の聖ヨハネと共に生きていた」と述べています。この言葉から、師がいかに「愛と暗夜の博士」である十字架の聖ヨハネと親しく交わっていたかを垣間見ることができます。
013そして最後は、「わたしとともに成長し、その秘密を明かしてくれた幼な友だち」であった幼きイエスの聖テレーズです。

テレーズは現代に適した生き生きとした方法で、父なる神への絶対的な信頼と、日常生活のこまごまとしたことにこめる深い愛の大切さを師に示しました。師はテレーズの教えが、わたしたちの時代に極めてかなったものであることを早くから見ぬいていました。
003師はさらにカルメル会の源泉である預言者エリアにまで遡りました。

エリアは神の超越的な神秘を観想するために砂漠に退きますが、神が彼を使命に呼ばれているというほんのわずかな徴でも見つけるやいなや、砂漠の観想から出て行ったのです。ひとえに神の権利を守り、当時のあらゆる偶像に対して唯一の神、主の力を告げ知らせるためでした。そのエリアの姿こそ、神と世界の両方に向かう「祈りの使徒」の愛の動きを示しています。エリアは神の深みを探り、そこからくみ取った力で世界の人々へ向かいます。そこには、「愛を愛し、愛させるために」というリジューのテレーズのこだまが聞こえます。
005師は自分の生涯のうちに、神への愛と人々への愛をダイナミックに統合させました。

彼の成し遂げた使徒的活動は三人分の人生に匹敵すると言われますが、その陰には、どのような仕事があろうと昼も夜も長時間、聖櫃の前で過ごす師の姿がありました。一九七〇年九月二七日、教皇パウロ六世がアビラの聖テレサを教会博士として宣言した際に、テレサについて語った次の言葉は、まさしく師にもあてはめることができるでしょう。

「比類のない観想家、そして、倦むことのない活動家である」と。